ADAS開発におけるHMI(ヒューマンマシンインタフェース)の位置付け

ADAS(Advanced driver-assistance systems:先進運転支援システム)では、ヒトと車載システムが自動車を共同で運転します。したがって人と自動車が円滑なコミュニケーションを形成する必要があります。

そこでADASの設計、開発にあたり、HMI(Human Machine Interface:ヒューマンマシンインタフェース)の概念が重要となります。HMIは、人間と機械が意思や情報を伝達するプロトコルともいえます。

1.HMIがADASと自動運転の違いを決定づける

ADASはヒトが自動車を運転する際の支援システムであり、自動運転は自動車が自律走行するという概念です。

自動運転レベル2であるADASとレベル3以上に区分される自動運転の違いを決定づけるのは、運転の主体がヒトであるかシステムであるか、という点にあります。ADASは運転の主体がヒトであるため、自動車の状態や、必要な操作を的確にシステムがドライバーに伝えなくてはいけません。

一方でレベル3以上の自動運転は操作の主体がシステムとなり、レベルが上がるに連れ自動車がドライバーに対して運転操作に関する複雑な情報を伝える要素が少なくなります。

HMI設計は、まさしくADASならではの重要な概念となります。

2.ADASにおけるヒトから車への情報伝達はヒューマンファクターズの定義から

ADASにおいてHMI要素を検討するには、広義には人間工学と同義とされるヒューマンファクターズ(Human factors:人的要因)を定義することが重要です。

例えばステアリングやブレーキペダルの操作など、ヒトが車を運転する際の動作を安全かつ経済的に動作・運用できるように定義しなければなりません。

定義されたヒト(ドライバー)の動作をマシン(自動車)が検出することで、ヒトからマシンへの指令伝達は行われます。

3.HMIにおける車からヒトの情報伝達

 逆にマシンからヒトに伝達する場合は、視覚、聴覚、触覚などを介して伝達します。

自動運転の実用化にむけて現在開発に取り組んでいる自動運転レベルのレベル3では、自動運転の継続が出来なくなった場合に自動運転システムが主体の状態からドライバーが運転の主体に移行する必要があります。

その際に、HMIを介して車からヒトへの情報伝達が発生します。

車載システムから伝達される情報が、ヒトの運転行動に誤解や混乱を与え、ネガティブな影響を与えることなく、正確に認識されADASの機能を有効活用させるためには、視聴覚情報を始めとしたインタフェース設計に注意と工夫が必要です。

4.HMIのインタフェース設計

ADASシステムからドライバーに情報を伝える際は、その内容や特質に応じて、視覚、聴覚など感覚モダリティに留意し、認知・判断しやすい最も合理的で分かりやすい視聴覚表示をする設計が肝要です。

視覚表示のサイズや色、聴覚表示の音圧や周波数などの物理的特性により明確なメッセージを示します。

HMIは、人と機械が装置やソフトウェアを介して情報を交換します。自動車の場合は、ドライバーが運転時に操作するステアリング、アクセル、ブレーキや自動車の状態を示す各種計器などが該当します。

もともと自動車の計器はスピードメーターやタコメーター、方向指示器、各種警告灯など、シンプルな機械式のものがほとんどでした。

しかし、自動車のエレクトロニクス化が進み、周辺の状況をカーナビのモニタに表示するなど、より多くの情報をドライバーに伝える必要が出てきました。

特にADAS のHMI設計においては、自動車のシステムから伝達される情報をドライバーが正しく理解し、運転操作にネガティブな影響を与えないようにしなければなりません。

情報の特徴に配慮して、それに相応しい視覚や聴覚を採用する設計が重要です。

そのためには、人体工学(エルゴノミクスデザイン)や誰でも理解が出来るようにユニバーサルデザインの導入、障害を持った人でも理解できる視聴覚表示が求められます。

5.伝達情報の分類

ADASシステムからドライバーに伝達される情報は、その緊急性・重大性に応じて下記の3種類のレベルに分類することができます。

 ・情報供給:通常の交通状況や道路環境を伝達する。
 ・注意喚起:衝突の危険性が高まった際に、注意を喚起する。
 ・警報:衝突の危険性が一定以上高まった際に、回避操作の指示をする。

6.情報伝達方法の注意点

例えばFCWやABSといった衝突防止機能を設計する際は、前車との車間距離や自車の速度に基づいて、衝突までの切迫度や情報の意味をドライバーが正しく理解しなければなりません。

提供された情報に基づいて、ドライバーが適切なブレーキペダルの制御やステアリングの操作ができるように、情報の緊急性、重要性に応じた視覚的、聴覚的表示方法を決定する必要があります。

運転中に、死角などドライバーが直接確認できない所の情報を、ADASシステムがドライバーに伝達するケースを考えてみましょう。

システムが視覚表示等でドライバーに正確にその意図を伝えないと、ドライバーの誤解や混乱を招き、事故を低減するどころか逆に不要な急ブレーキ等、危険な運転行動を誘発しかねません。

このように視聴覚表示の物理的特性を重大性や緊急性に則した形で決めなければ、事故発生までの緊急性や伝達情報の意図を誤って読み取り、ブレーキペダルの誤操作等が起こる危険があります。

自動車の衝突時など時間的猶予のない状況では、視覚表示を目視する時間に限りがあるため、信号音により直ちに情報を通知し、瞬時に適正な運転行動を起こさせることも可能です。

この様にHMIには、状況の深刻度や切迫度が適切に伝わる表示形式を採用するように努める必要があります。

7.習熟度や年齢に配慮したHMI

衝突などの交通事故は、ドライバーが日常の運転で頻繁に経験するものではなく、緊急事態への対応の練度は、決して高いとは言えません。

間髪を入れない対応が必要な場面で、ADASシステムがどのように作動・伝達をするか、知りえないことも考えられます。
この様な緊急時の予備知識のないドライバーでも、即座に理解し行動に移せるデザインがHMIには求められます。

ADAS(先進運転支援システム)のHMI(ヒューマンマシンインタフェース)を設計する際は、ドライバーの年齢が及ぼす影響についても考慮する必要があります。

とりわけ高齢者は、運転時に情報を処理する量とスピードが、若い頃より低下する傾向があります。

そのため、一度に提示する情報量を限定したり、情報の深刻度や切迫度に即した伝達方法を採ったりする等の注意が必要です。

この様にHMI実装のため、自動車メーカーやOEM等で分析や研究が進められています。
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