第三創業として、独自ロボットの開発から世界のロボット導入を支援する側へ
2001年1月、今はまたブームが到来しているヒューマノイドロボットベンチャー、株式会社ZMPを創業しました。「楽しく便利な社会を創る」を創業理念に掲げ、2005年には世界初の家庭用ヒューマノイドロボット「nuvo(ヌーボー)」を発売しました。事業の立ち上がりは順調でしたが、継続的に利用される「キラーアプリ」が見出せず、発展には至りませんでした。高価な玩具の域を出なかったのです。
そこで、日常的に楽しめる手頃な価格のロボット開発を目指し、当時流行していたiPodに着目しました。iPodがWindowsに対応し、音楽をデジタルコンテンツとして流通させるネットワークミュージックが流行していた頃です。
私も通勤中にiPodを使用していましたが、帰宅後はヘッドホンを外し、テレビをつける生活でした。実は私はオーディオ好きで、McintoshやJBLの大型スピーカーを所有していましたが、CDプレーヤー、プリアンプ、メインアンプの電源を入れ、CDを選ぶといった手間をかけることが減っていたのです。
そんな時、帰宅後にiPodをロボットに接続し、高音質な音楽をシームレスに楽しめるアイデアが浮かびました。このアイデアを基に、ピュアオーディオを目指してJVCケンウッドと提携し、当時まだ一般的でなかったSLAM(自己位置推定と地図作成の同時実行)技術をロボットに搭載しました。
2007年、自律移動ロボット「miuro(ミューロ)」が誕生しました。六本木ミッドタウンの街開きと時を同じくし、三井不動産のPR動画にも登場、六本木ミッドタウンや銀座アップルストアでも販売されました。
初期ロットは完売しましたが、次の大規模ロット生産のための資金調達中にリーマンショックが起こりました。資金源はベンチャーキャピタルのみであり、資金調達は困難を極め、最終的には銀行から個人保証による借り入れを行いました。こうして、私の家庭用ロボットの夢は一旦幕を閉じました。
第二創業:自律移動技術と自動車分野への転換
自身の技術資産を再評価し、経験のある自動車分野と、ロボットの目(ビジョン)技術、自律移動技術を組み合わせ、「RoboCar(ロボカー)」と名付けた製品を開発することにしました。いきなり自動車開発は困難なため、ラジコンカーを改造し、2009年に「RoboCar 1/10」を発売しました。当時の残預金は2ヶ月分の運転資金しかなく、自身の役員報酬も3ヶ月未払いの状態でしたが、「RoboCar 1/10」が幸運にも売れ、V字回復を達成しました。これが第二創業です。
その後、一人乗り電気自動車トヨタコムスを改造した「RoboCar MEV」、トヨタプリウスを改造した「RoboCar HV」を開発し、自動運転タクシーやバスへと発展させました。
第三創業:ロボットインフラの構築へ
2016年、私自身の転機が訪れました。東京藝術大学の博士課程に進学し、2つのことを学びました。
1つ目は、人間社会に溶け込むデザインとして、ロボットの「自律意思」を表現する目 の研究を行い、「DeliRo(デリロ)」が誕生しました。
2つ目は、街のデザインについての学びです。私が所属した長濱研では街のデザインも手掛けており、その影響を受け、「ロボット(端末)だけではなく、ロボットが働く街のインフラをデザインすることが重要」であると気づきました。ここから、「ROBO-HI(ロボハイ)」 の構想が生まれました。
これまで15年間、私は「自ら作りたいロボット」を開発してきました。しかし、ROBO-HI の視点に立つと、世界中のロボットが「頼もしい仲間」に見えてきたのです。ロボットはそれぞれ機能が異なり、強みも弱みもあります。安全面などのクリティカルな課題を補いながら、良い点を伸ばすことが大切です。私は、親や教師のような視点を持つようになりました。
ゼネコンと連携し、建築設計に適合した「ROBO-HI」の開発を進め、企業向けソフトウェア会社を参考に、独自のビジネスモデルを考案しました。
2025年3月、会社は大きな転機を迎えます。
・社名変更(創業以来24年間使用した名称から新たなものへ)
・文京区から中央区へ事務所移転(16年ぶり)
・決算月を12月から6月へ変更(創業以来24年ぶりですが、これはあまり関係ないかもしれません)
・ROBO-HI の最大導入先である「高輪ゲートウェイシティ」開業(日本一、たぶん世界一のスマートシティでしょう)
・空港向け自律走行牽引車「RoboCar 25T」の発売(丸紅との合弁会社「AiRO」にて年内にレベル4達成、翌年量産開始予定)
この大きな変革の波に乗り、会社組織を第三創業として再構築し、次世代への発展の礎を築きたいと考えています。
人生をフルマラソンに例えるなら、今は30キロ地点を過ぎたあたりでしょう。実はフルマラソンを走った経験はないのですが、今年の東京マラソンで太田蒼生選手の走りに感動しました。私も常に先頭を走り続けたい。先頭は創造性に溢れ、何よりも楽しい。誰よりも早く未来の景色を見ることができるからです。そこでは、ほんとうにゴールがあるのか、ルートを変更できるのかといった判断もできます。だからこれからも新たなレースで先頭を走り続けます。
私自身、サミュエル・ウルマンの詩「青春」にあるように、「ときには20歳の青年よりも60歳の人に青春がある」、「60歳であろうと16歳であろうと未知への探求心、人生への興味の歓喜がある」と信じています。
間もなく訪れる春と共に、晴海アイランドに拠点を移し、新たなスタートを切りたいと願っています。
皆様には、これまで以上に無茶ぶり大歓迎! 誰もが不可能だと思うような理想的な仕事に挑戦させていただければ幸いです。
第三創業、ROBO-HI株式会社のメンバー一同、前例のない挑戦を続けて参りますので、ご支援のほどよろしくお願い申し上げます。
谷口恒
2025年3月14日 小石川オフィス最終日にて
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